出生前診断
子宮内の赤ちゃんの異常を把握する、出生前に行われる診断のことです。一般的には、赤ちゃんの染色体異常や遺伝子異常、形態学的異常(先天性心疾患などの奇形)を診断するものです。すべての新生児の赤ちゃんのうちおよそ3~4%は、形態学的異常や精神発達障害、遺伝性疾患などの何らかの先天異常が認められるとされています。
どんな検査が行われるの?
診断のために行われるのは、以下の検査です。
1、羊水検査
妊婦の羊水中の赤ちゃんの細胞の一部を採取し検査することによって、染色体異常や先天性代謝異常の一部のものが分かります。
2、超音波断層法
赤ちゃんの形態学的異常、発育や機能的障害の一部のものが分かります。NT(nuchal translucency)なども、この超音波断層法で診断されます。
3、血液検査(クアトロテスト)
妊婦の血液を採取し、その血液内のマーカーの数値などを考慮し染色体異常(ダウン症候群、18トリソミー)や解放性神経管奇形の割合を算出するものです。しかし、確定診断とはなりませんので、確定診断のためには羊水検査が必要となります。
4、血液検査(NIPT:無侵襲的出生前遺伝学的検査)
これは、妊婦の血液を用いた新しい出生前遺伝学的検査です。ダウン症候群では、99%以上の的中率があるといわれます。
羊水検査はどういうものですか?
羊水中の赤ちゃんの細胞を調べるために、羊水穿刺を行う必要があります。超音波診断装置を用いて赤ちゃんや胎盤の位置を確認し、局所麻酔を行い、超音波診断装置でモニターしながら注射針を子宮内まで穿刺し、羊水を20ml採取します。
侵襲的な検査であり、流産率は羊水穿刺では約1%あります。
また、羊水染色体検査には健康保険が適用されず、自費となります。当院では、ご夫婦で遺伝カウンセリングを受けていただいたのち検査を行います。当院での検査では入院費用と検査費用がそれぞれ7万円程度必要となります。
超音波断層法でわかるものは?
現在では、胎児の発育や胎盤の位置、子宮頸管の長さなど、超音波断層法で診断することが多くなり、すべての妊婦を対象として妊婦健診時にルーチンの検査として頻用されています。
妊娠初期のスクリーニング
NT(nuchal translucency):妊娠初期の赤ちゃんの首の後ろのむくみのことです。ダウン症候群の赤ちゃんでは、このNTが増加すると言われています。その他、ダウン症候群以外の染色体異常、主要な構造異常、妊娠合併症などとも関連していると言われます。
妊娠中期から後期のスクリーニング
赤ちゃんの心臓の異常(先天性心疾患)、腹部の異常な嚢胞の出現(消化管閉鎖や卵巣嚢腫、尿路異常など)、その他形態学的異常(頭、脳、顔、背骨、肺、腎臓、手や足などの異常)など診断できるものが多くあります。初期には認められなかった異常や、後期になってから出現する異常もあるため、中期以降も超音波断層法で赤ちゃんの全身をみていくことが重要です。
出生前に赤ちゃんの異常がわかっている場合には、出生後の検査や処置を速やかに行うことができますので、出生後早期に処置が必要とされる疾患や生命に危険を及ぼす可能性のある疾患については、出生前診断はとても重要なものになります。
しかし、超音波断層法での出生前診断は、赤ちゃんの確定診断となるものではなく、実際には出生後に診断が確定されるものと考えています。
血液検査(クアトロテスト)とは?
クアトロテストとは、妊婦の血液中にある、胎児や胎盤から出てくる4つの成分を測定して、胎児が、ダウン症候群、18トリソミー、開放性神経管奇形である確率を算出するスクリーニングテストです。妊婦の年齢が高くなるほど、ダウン症候群や18トリソミーの赤ちゃんが生まれる確率が高くなります。
検査方法
妊婦から、少量の血液を採取し、血液中の4つの成分(AFP, hCG, uE3, Inhibin A)を測定します。この4つの成分の値に、妊婦の年齢、妊娠週数、日本人の基準値などを加えて、赤ちゃんがそれぞれの疾患であるかどうかについて、妊婦一人ひとりの確率を算出します。 クアトロテストは、妊婦の年齢に固有の確率をもとに、妊婦一人ひとりの確率を計算しているため、年齢の高い妊婦ほど、クアトロテストの検査結果の確率が高くなる傾向があります。
結果からわかること
赤ちゃんが、対象の疾患(ダウン症候群、18トリソミー、開放性神経管奇形)にかかっている確率がわかります。 たとえば、確率が1/500とすると、同じ1/500の確率を得た妊婦様が500人いたとすると、その中の一人が、対象疾患の赤ちゃんを妊娠している可能性がある、と解釈します。 約2万例の調査では、スクリーニング陽性の結果が約9%で、そのうち実際にダウン症候群の赤ちゃんを妊娠していたのは約2%だった、という報告があります。
当院では、ご夫婦で遺伝カウンセリングを受けていただいたのち検査を行います。当院での検査では、検査費用として1万5千円程度必要となります。
血液検査(NIPT)とは?
妊婦の血液内にある赤ちゃん由来のDNAのかけら(cell free DNA)を検出して赤ちゃんの数的染色体異常を診断します。流産リスクのある羊水検査等と異なり妊婦の採血のみで行うことができるので、「無侵襲的出生前遺伝学的検査(non-invasive prenatal genetic test); NIPT」と呼ばれています。
この検査の精度は高い(ダウン症候群で99%以上)といわれていますが、妊婦さんの年齢により精度は異なります。つまり、この検査の結果が陽性であっても実際は赤ちゃんの染色体に何ら問題がない場合が存在します。このため、検査で陽性と出た場合は確定診断のために羊水検査など侵襲的検査が必要となります。
お母さんと赤ちゃんにとって安全で簡便な検査なのですが、対象疾患や検査でわかることの限界、検査の方法や意義・結果の解釈やその後の選択肢などをよく考えていただき、ご夫婦にとって有用と判断された上で検査を受けて頂くことが重要です。国内においては当面臨床研究の一環として行われ、一定の条件のもとに実施されることになりました。